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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)10567号 判決

原告 中塚健一

右訴訟代理人弁護士 田中厚

同 榊原美紀

被告 株式会社アイワエステム

右代表者代表取締役 内本晃一

被告 内本晃一

右両名訴訟代理人弁護士 中村潤一郎

南口建設こと

被告 南口義治

右訴訟代理人弁護士 赤澤博之

被告 矢野裕士

右訴訟代理人弁護士 水間頼孝

主文

一  被告株式会社アイワエステム及び被告内本晃一は、原告に対し、連帯して金三九七四万二三九九円及びこれに対する平成九年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告株式会社アイワエステム及び被告内本晃一に対するその余の主位的請求並びに被告南口義治及び被告矢野裕士に対する主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告株式会社アイワエステム及び被告内本晃一に生じた費用を被告株式会社アイワエステム及び被告内本晃一の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告南口義治及び被告矢野裕士に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主位的請求

被告らは、原告に対し、連帯して金四一五二万七二一九円及びこれに対する平成九年一〇月二日(代金支払日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告らは、原告に対し、連帯して金二九〇二万六七五〇円及びこれらに対する被告株式会社アイワエステム(以下「被告アイワエステム」という。)は、平成一一年一〇月一六日(訴状送達日の翌日)から、被告内本晃一(以下「被告内本」という。)、被告南口義治(以下「被告南口」という。)及び被告矢野裕士(以下「被告矢野」という。)は平成九年九月二三日(不法行為の日)から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告アイワエステムから別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物(以下「本件建物」といい、右土地と併せて「本件不動産」という。)を購入した原告が、本件建物には相当な構造耐力や耐火・防火性能につき欠陥が存するなどと主張して、主位的には、被告アイワエステムに対して瑕疵担保責任(民法五七〇条)に基づき本件不動産の売買契約を解除し原状回復として売買代金相当額の返還及び損害賠償を請求(含遅延損害金)するとともに、その余の被告らに対して共同不法行為に基づき損害賠償を請求(含遅延損害金)し、予備的には、被告アイワエステムに対して瑕疵担保責任(民法五七〇条)に基づき損害賠償を請求(含遅延損害金)し、その余の被告らに対し共同不法行為に基づき損害賠償を請求(含遅延損害金)している事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者等

(一) 原告は、住居として使用する目的で、本件不動産を被告アイワエステムから購入して所有する者である。

(二) 被告アイワエステムは、不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介等を主たる目的とする株式会社である。

被告内本は、被告アイワエステムの代表取締役であるとともに、本件建物の建築主である。

被告南口は、本件建物の施工者であり、南口建設の屋号で建築の請負等を営んでいる者である。

被告矢野は、二級建築士の資格を有し、矢野建築設計事務所の屋号で建物の設計等を営んでいる者である。

2  本件売買契約

原告は、被告アイワエステムとの間で、平成九年六月一六日、本件不動産を三一六〇万円で購入する旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。

本件売買契約当時、本件建物は未着工であったが、平成九年九月二三日完成し、同年一〇月二日に引き渡され、同日原告への所有権移転登記手続が行われた。

3  本件売買代金

原告は、被告アイワエステムに対し、本件売買契約の代金として、平成九年九月一六日に一〇万円、同年六月二三日に四〇万円、同年七月二九日に一一〇万円、同年一〇月二日に三〇〇〇万円を、さらに、同日追加費用としてサイディング代及び網戸代合計三三万五〇〇〇円を支払った(以下、原告の支払った右金員(合計三一九三万五〇〇〇円)を「本件売買代金」という。)。

4  原告は、平成一一年二月上旬、堺市開発調整部から、「木造三階建て住宅の調査結果について」と題する書面(甲一二)を、郵送で受けとった。右書面には、本件建物は建築基準法(以下「法」という。)の定める構造基準を満たしていないように見受けられるので、一度調査するように勧める旨記載されていた。

5  原告は、一級建築士平野憲司に、本件建物の構造及び防火性能に関する建築基準法令違反の有無、違反の程度、補修方法、補修費用等につき、調査鑑定を依頼した。平成一一年三月三日及び同年五月一二日、平野建築士立会いの下、調査が実施され、その結果、平成一一年五月二五日付鑑定書(甲一四。以下「平野鑑定書」という。)が作成された。

6  原告は、平成一二年一月二一日、内容証明郵便(甲四五)をもって、被告アイワエステムに対し、瑕疵担保責任に基づき、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。

二  争点

1  本件建物の瑕疵の有無(主位的・予備的請求)

2  本件売買契約の解除の有効性-本件建物の瑕疵のため本件売買契約の目的達成が不可能といえるか(主位的請求)

3  被告内本の不法行為の成否(主位的・予備的請求)

4  被告南口の不法行為の成否(主位的・予備的請求)

5  被告矢野の不法行為の成否(主位的・予備的請求)

6  損害等(主位的請求)

7  損害等(予備的請求)

三  当事者の主張

1  争点1(本件建物の瑕疵の有無)について

(原告の主張)

本件建物には、次のとおりの瑕疵が存在する。

(一) 構造性能の欠陥

(1)  構造耐力上必要な軸組長さの不足

建築基準法施行令(以下「令」という。)四六条四項及び建設省告示第一一〇〇号は、建築物の地震力や風圧力に対する軸組長さの基準を定めているところ、本件建物の軸組長さは、一階で一七・五二メートル、二階で一〇・七二メートル、三階で〇・六三メートル不足し、右令等に定める最低基準を下回っており、地震力や風圧力の水平力に対して通常有すべき安全性を欠いている。

(2)  軸組配置の釣り合い不良

令四六条一項及び八二条の三第二号は、軸組を釣り合い良く配置し、偏心率は一〇〇分の一五以下とする旨定めているところ、本件建物の偏心率は、一〇〇分の二二であり、右基準を超えており、地震力や風圧力の水平力に対して通常有すべき安全性を欠いている。

(3)  筋交い及び火打ち梁の緊結不良

令四五条三項は、筋交いはボルト等の金物で緊結しなければならない旨定めているところ、本件建物の筋交いは、突付け、釘打ちによる取り付けであるため、筋交いに引張力が働くと、筋交い端部が柱からはずれてしまい、耐力を発揮できない状態である。

また、令四七条一項は、構造耐力上主要な部分である継手又は仕口は、ボルト締め等で存在応力を伝えるように緊結しなければならない旨定めているところ、本件建物の火打ち梁の取付には、釘打ちの箇所があり、耐力を発揮できない状態となっている。

(4)  布基礎のはつり

本件建物の車庫東側の布基礎は、コンクリート打設後、約二三センチメートルはつられており、また、横鉄筋の主筋も右はつり工事に伴って切断されたと推測され、本件建物は、右はつり等により基礎スラブの剛性が弱められ、不同沈下が発生するおそれがある状態である。

(二) 防火・耐火性能の欠陥

法二三条は、外壁のうち延焼のおそれのある部分を土塗壁とし、または延焼防止についてこれと同等以上の効力を有する構造としなければならない旨定めているところ、本件建物の外壁のうち、窯業系サイディング直貼である前面以外は、裏面が可燃性の硬質プラスチックフォーム及びアルミ箔である金属系サイディングで、防火構造不適格の材料であり、本件建物は、防火・耐火性能が不十分な建物である。

(被告らの主張)

本件建物に欠陥があるとの原告の主張につき否認ないし争う。

2  争点2(解除の有効性-本件建物の瑕疵のため本件売買契約の目的達成が不可能といえるか。)

(原告の主張)

本件建物の現状の空間利用を損なわずに、安全性を有する建物にするには、一階及び二階を全て解体して鉄骨造りとして新設するより他ない。三階部分については、現状の軸組を補強することで補修は可能であるが、三階部分を再利用するためには、ジャッキアップによる仮置きが必要となるところ、本件建物の西面には隣接住宅が近接しており、ジャッキアップの設置は不可能である上、三階部分の仮置中に地震や台風があると右仮置部分が倒壊するおそれがある。よって、本件建物の欠陥を除去し、あるべき姿に回復する補修方法としては、本件建物を全て解体し、新たな建物を再築するより他に方法がない。

したがって、本件建物の瑕疵のため、本件売買契約の目的達成が不可能である。

(被告らの主張)

本件建物の外壁及び内部とも、現実的な構造的不具合はないし、原告主張の瑕疵が仮に存在するとしても、補修が可能である。

3  争点3(被告内本の不法行為の成否)について

(原告の主張)

被告内本は、被告アイワエステムの代表者として、本件建物が新築分譲住宅として原告に売却されることを知悉していたのであるから、原告との関係では、施行業者をして関係法令上構造等に関する最低基準を満たした安全な建物を建てさせるべき注意義務を負うというべきである。しかるに、被告内本は、右注意義務を怠り、本件欠陥住宅を生じさせ、これを被告アイワエステムをして販売させることによって、原告に損害を与えたのであるから、原告に対し、不法行為責任を負う。

更に、被告内本は、本件建物の建築主として建築確認申請をして建築確認を受けているところ、自らが代表者を務める被告アイワエステムとともに、施行業者である被告南口をして、建築基準法所定の完了検査も経ずに本件建物を完成させ、本件建物の欠陥を生じさせたものであり、この点からしても、被告内本は、原告に対して不法行為責任を負う。

(被告内本の主張)

被告内本は、建築確認申請後、顧客のニーズに合うように間取りを変更して被告南口に建築を依頼したものであり、被告南口が建築基準法等の基準に合致した建物を築造するものと信頼していたものである。

4  争点4(被告南口の不法行為の成否)について

(原告の主張)

被告南口は、建設業法二五条の二五により、その職責として、施工技術を確保するべき法律上の注意義務を有し、それには建築基準関係法令に準拠した施行をさせるべき注意義務をも包含すると解すべきところ、被告南口は、本件建物が右法令に違反し、かつ、危険な建築物であると認識しながら、右注意義務を怠り本件建物を建設したものであり、原告に対して不法行為責任を負う。

なお、被告南口は後記のとおり、被告アイワエステムから受け取った図面に従ったに過ぎない旨主張するが、同被告は、右のとおり、施行業者として自らが法令等を遵守する義務があるのであるから、右事実をもってしても不法行為責任を免れない。

(被告南口の主張)

被告南口は、被告アイワエステムから間取図面を受け取り、右図面に従って本件建物を建築したに過ぎない。

5  争点5(被告矢野の不法行為の成否)

(原告の主張)

被告矢野は、二級建築士の資格を有するものであり、建築主の代理者として建築確認申請を行い、同申請において設計者及び工事監理者として届け出たのであるから、本件建物に対し、建築士法一八条に基づき、その職務を誠実に行い、建築物の質の向上に努め、また、設計を行う場合には、法令又は条例の定める基準に適合するようにし、さらに、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに工事施工者に注意を与え、工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告すべき注意義務を負っていた。しかし、矢野は、右義務を懈怠し、その結果、本件建物に前記1(原告の主張)記載のとおりの欠陥を発生させたものであり、原告に対して不法行為責任を負う。

なお、被告矢野は、後記のとおり、工事監理契約者につき、名義を貸したに過ぎない旨主張するが、工事監理者として届け出ることに同意した以上、たとえ名義を貸したに過ぎないとしても、建物の建築につき施工業者に建築基準法令を遵守させることを誠実に遂行することが要求されたのであるから(建築士法一八条)、被告矢野には、右義務違反により不法行為責任は免れないというべきである。

(被告矢野の主張)

被告矢野は、被告内本の依頼を受けて本件建物の設計図面を作成し、右設計図は、法令の定める基準に適合するものであったが、実際に建築された本件建物は右設計図面と大幅に異なる内容のものであり、被告矢野はこれにつき、全く知らなかった。また、被告矢野は、建築確認申請書上は工事監理者と記載されているが、実際は、被告内本と工事監理契約を締結しておらず、同被告に建築確認申請のために建築士の名義を貸したに過ぎず、工事監理者ではない。

したがって、被告矢野は不法行為責任を負わない。

6  争点6(損害等(主位的請求))について

(原告の主張)

主位的請求における原告の損害は次のとおりである。

(一) 司法書士費用     四六万九九五〇円

(二) 火災保険料      四五万三二四〇円

(三) 住宅ローン保証金   六九万〇一五六円

(四) 契約印紙代       二万〇二〇〇円

(五) 固定資産税      一八万二六四〇円

(六) 住宅ローン既払金利(平成一一年三月までのもの)

一一五万六二八三円

(七) 建築士の調査鑑定費用 八四万九七五〇円

原告は、前記1(原告の主張)記載の本件建物の欠陥を正確に知るために、第三者の専門家による調査鑑定を必要とし、平野鑑定士に対し、右調査鑑定を依頼し、その報酬として八四万九七五〇円を支払った。

(八) 慰謝料           二〇〇万円

原告は、本件建物が法令等に違反する建物であると知り、多大な精神的打撃を受け、また、本件建物への居住の継続により倒壊のおそれへの不安に脅かされている。かかる精神的損害に対する慰謝料としては、二〇〇万円が相当である。

(九) 弁護士費用         三七七万円

7  争点7(損害等(予備的請求))について

(原告の主張)

予備的請求における損害額は以下のとおりである。

(一) 補修費用(取り壊し再築費用) 一九三七万円

(二) 工事監理料           二〇三万七〇〇〇円

(三) 補修期間中の代替建物賃料    一二五万円

(四) 引越費用             四〇万円

(五) 登記費用等            一二万円

(六) 慰謝料             二〇〇万円

(七) 本件欠陥調査鑑定費用       八四万九七五〇円

(八) 弁護士費用           二六四万円

第三当裁判所の判断

一  前記争いのない事実及び証拠(甲三ないし五、四四の1ないし16、五〇ないし五三、六八、六九、丙一、丁一及び弁論の全趣旨)によれば、次の各事実が認められる。

1  被告矢野は、平成八年ころ、被告内本から依頼され、本件建物につき、設計図面を作成し、被告内本の代理として建築確認申請を行い、その報酬として二〇万円を受け取った。被告矢野は、被告内本と工事管理契約を締結しなかったが、建築確認申請書類(甲三、四四の2、3)に自らを工事監理者と記載して、右建築確認申請を行った。被告矢野は、その後、本件建物の建設につき工事監理を行わず、被告内本は、本件建物の建築に当たって、工事監理者を置かなかった。

2  被告内本は、堺市からの建築確認通知後、建築確認を受けた内容と全く異なる建物の間取図(甲五の一二丁目と同種のもの。以下「本件間取図」という。)を被告南口に交付して、右間取図にしたがった建築を依頼し、被告南口は、右指示に従って、右間取図面どおりに本件建物を建築した。

3  原告は、平成九年六月一二日ないし一三日ころ、住宅広告雑誌により、本件不動産が販売されていることを知り、被告アイワエステムの営業所を訪ねたところ、応対した同被告の従業員である東口廣和から本件間取図を見せられて本件不動産の概況の説明を受け、その購入を勧められた。

4  被告内本は、本件契約締結の際、取引主任者として、原告に対し、重要事項説明書(甲五)を示して、本件建物につき、宅地建設取引業法に規定される事項の説明をした。その際、被告内本は、原告に対し、本件建物が右3のように建築確認申請の際の設計図と異なる間取りで建築されたことや、後記二記載の本件瑕疵の存在について、全く告げなかった。その結果、原告は、本件建物が瑕疵のない完全な建物である旨誤信して、本件売買契約を締結した。

二  争点1(本件建物の瑕疵の有無)について

1  平野鑑定書(甲一四)によれば、以下のとおり認められる。

(一) 本件建物は、木造(軸組工法)三階建てであるから、法六条一項二号に該当する建築物である。

(二) 構造性能について

(1)  軸組長さについて

本件建物の小屋裏で三階の軸組調査を行ったところ、三階の筋交いは三センチメートル×九センチメートルのシングルであり、一階及び二階の軸組については、壁仕上材の撤去を伴うため筋交い調査ができなかったが、全ての軸組で三センチメートル×九センチメートルの筋交いがたすき掛けで設置されているものとして、壁倍率三倍で軸組長さの検討を行うこととし、また、軸組長さ九〇センチメートル以下の場合に設置された筋交いも構造耐力上の軸組として計算すると、本件建物のけた行き方向の軸組長さは、令四六条四項の定める軸組長さの最低基準に、一階で一七・五二メートル、二階で一〇・七二メートル、三階で〇・六三メートル不足している。また、本件建物は、法二〇条二項により、構造計算によって安全な構造であることを確かめる必要があるところ、構造計算による構造耐力上必要な軸組長さは、通常令四六条四項に定める軸組長さよりも一・五倍程度長い値であるから、構造計算上の必要な軸組長さをはるかに下回る。

(2)  軸組配置の釣り合いについて

本件建物は、狭小間口の車庫付き木造住宅であるため、一階けた行方向の軸組が車庫及び玄関部分になく、一階けた行方向の軸組は偏心率が大きいと予測されるところ、本件建物の一階のけた行方向の軸組の偏心率は一〇〇分の二二であり、令八二条の三第二号に定める偏心率一〇〇分の一五の基準を上回る。

したがって、本件建物は、地震力や風圧力などの大きな水平力を受けると二階の床面が回転して、北側に大きな変形が生じ倒壊するおそれがある。

(3)  筋交い及び火打ち梁の緊結について

筋交いの取付・緊結につき、突付けの場合は、筋交いプレート等で緊結することが必要であり、また、筋交いを釘打ちで緊結する場合は一部かたぎ大入れ、一部びんた延ばしの仕口とする必要があるにもかかわらず、本件建物の筋交いは、突付け、釘打ちによる取付である。その結果、本件建物は、筋交いに引張力が働くと筋交い端部が柱からはずれるおそれがある。

また、構造耐力上主要な部分である継手又は仕口は、ボルト締め、かすがい打、込み栓打その他の構造方法によりその部分の存在応力を伝えるように緊結する必要があるところ(令四七条)、本件建物の火打ち梁の取付には、釘打ちの箇所があり、その部分につき緊結不良である。

(4)  布基礎のはつりについて

本件建物は木造三階建であり、一階床下が土間コンクリートであるから、基礎形式はベタ基礎だと推測されるところ、RCレーダーによる鉄筋調査によれば、ベタ基礎の仕上がり部分(布基礎)は、三〇センチメートル間隔の縦鉄筋が配置されており、車庫東側の布基礎は、布基礎コンクリート打設後、約二三センチメートルの立ち上がり部分がはつられており、布基礎の天端付近の配置された横鉄筋の主筋が、右はつり工事に伴って切断されたまま、その補強が行われていないと推測される。この結果、基礎スラブの剛性が弱められ、本件建物に不同沈下を引き起こすおそれがある。

(二) 外壁防火性能について

本件建物は、法二二条の区域内にあり、右区域内の木造建築物の延焼のおそれのある部分、すなわち、隣地境界線、道路中心線又は同一敷地内の二以上の建築物相互の外壁の中心線から、一階にあっては三メートル以内、二階にあっては五メートル以内の距離にある建築物の部分につき、土塗壁又はそれと同等以上の延焼防止性能を有する構造にしなければならないところ(法二三条、二条六号)、本件建物の外壁は、窯業系サイディング直貼の前面以外は裏面が可燃性の硬質プラスチックフォーム及びアルミ箔である金属系サイディング直貼であり、右部分は、防火構造不適格の材料である。その結果、本件建物の外壁部分の防火性能は不足している。

2  前項1の認定によれば、本件建物には、構造性能及び防火性能のいずれにも著しい欠陥があり、重大な瑕疵があるものと認められる(以下、右1の瑕疵を併せて「本件瑕疵」という。)。

被告らは、これに対して、本件建物の外壁及び内部とも、現実的な構造的不具合はない旨主張し、これに副うものとして、一級建築士土肥茂夫の意見書(乙一)及び同人の調査報告書(乙二。以下、乙一の意見書と併せて「土肥意見書」という。)がある。しかし、土肥意見書は、具体的な測定結果や構造計算などに基づき作成されたものではなく、本件建物の外部からの目視と平野鑑定書を参考にして作成されたものに過ぎず、土肥意見書の記載内容の根拠は薄弱であるといわざるを得ず、平野鑑定と対比して採用することができず、被告らの右主張は採用できない。

三  争点2(本件売買契約の解除の有効性-本件建物の瑕疵のため本件売買契約の目的達成が不可能といえるか。)について

1  平野鑑定書によれば、本件瑕疵の補修方法につき、次のとおり認められる。

軸組補強について、現状の空間利用を損なわないように、各階けた行方向の軸組に最大倍率五倍の軸組を配置し、筋交いが配置できない車庫部分については、方づえを配置して、令四六条四項による軸組長さの計算を行ったところ、一階で四五・〇五メートル、二階で二〇・〇五メートル、三階で二八・四〇メートルとなり、二階につき、二・七メートル不足する。また、法二〇条二項に規定された構造計算により必要とされる数値より、一階けた行方向の軸組長さは一〇・九八メートル、二階は一四・〇八メートル不足する。したがって、右のように空間利用を損なわないような補強方法では、法令基準を満たさず、安全性を有する建物に補修することができない。そして、経済性及び本件建物の西面外壁と隣接建物が近接している状況での工事を考慮すると、補修方法としては、一階及び二階は鉄骨造に変更するのが妥当である。

さらに、三階部分は現在の軸組を補強することにより、構造の安全性は確保されるため再利用は不可能ではないが、一、二階が右のように解体、再築を要するため、その期間中、三階部分のジャッキアップによる仮置が必要となるが、かかる補修方法は、外壁と隣地境界線までの空地が少ない本件敷地においては不可能である上、右補修工事中に地震や台風があると、仮置した三階部分が倒壊するおそれがある。よって、右補修工事は事実上不可能というべきであり、三階部分についても撤去し再築する必要がある。

2  以上によれば、本件建物の現状の空間利用を損なわずに、本件瑕疵を除去し、安全性を有する建物にするための補修方法としては、本件建物を全て解体し、新たな建物を再築するより他に方法がない。そして、本件建物にかかる補修方法によらざるを得ない瑕疵が存する以上、本件瑕疵の存在により、本件不動産を住居として使用するという本件売買契約の目的を達成することが不可能であるといわざるを得ず、原告は、瑕疵担保責任に基づき、本件売買契約を解除することができる。

これに対し、被告らは、本件瑕疵の補修は可能である旨主張し、これに副うものとして土肥意見書があるが、右意見書は前記二2のとおり、平野鑑定に対比して採用できない上、被告ら主張の補修方法は、本件建物の現状の空間利用を大幅に変更するものであり(弁論の全趣旨)、本件売買契約の目的達成が可能ということはできず、被告らの右主張は採用できない。

三  争点3(被告内本の不法行為の成否)について

被告内本は、本件不動産の売主である被告アイワエステムの代表者であるとともに、本件建物の建築主として設計段階から本件建物の建築に関与し、建築確認申請をした上、前記一2認定のとおり、建築確認を受けた内容と全く異なる本件間取図を作成して被告南口に右間取図に従った本件建物の建築を指示したものであるから、同被告は、本件売買契約締結当時、本件瑕疵の存在を十分知悉していたものと認められる。しかるに、前記一4認定のとおり、同被告は、取引主任者として原告に本件不動産の説明をした際、原告に対し、建築確認を受けた内容と本件間取図が異なること及び本件瑕疵の存在を何ら説明することなく、ことさらこれを秘匿して、原告に本件建物が建築確認を受けた瑕疵のない完全な建物である旨誤信させて、被告アイワエステムとの間で本件売買契約を締結させ、本件売買代金等を支出させたものであるから、欺罔行為により本件売買契約を締結させ、その結果原告に後記六の損害を被らせたものであって、被告内本は原告に対して不法行為責任を負う。

四  争点4(被告南口の不法行為の成否)について

原告は、被告南口が法令等に違反して、故意又は過失により本件瑕疵を有する本件建物を建築したことをもって、被告南口が原告に対して不法行為責任を負う旨主張する。

そこで検討するに、不法行為が成立するというためには、当該行為により生命・身体・健康、所有権及びそれに準ずる法律上保護に値する利益(いわゆる完全性利益)が侵害されたといえることが必要であり、単に、契約に従った目的物の給付を受ける利益(債務者の行為を通して債権者が獲得しようとしている利益)のような契約法上の利益が侵害されたというだけでは、詐欺行為等があった等特段の事情がない限り、不法行為が成立する余地はなく、右契約法上の利益侵害による損害賠償は、契約法上の責任として処理すべきである。

したがって、建物の施工者が建築した建物に瑕疵が存在する場合でも、右瑕疵により、注文者やその後建物を取得した第三者の生命・身体・健康、所有権及びそれに準ずる権利等(完全性利益)が侵害されたという場合であればともかく、単に、瑕疵の存在により当該建物自体の価値が低いというのみでは、原則として、施工者の行為によって建物取得者の権利が侵害されたということはできない。もっとも、施工者が単に瑕疵ある建物を建築したというにとどまらず、積極的に、あたかも当該建物が建築確認のとおりに建築された瑕疵のない建物であるかのような説明をして当該建物の購入を勧誘するなど、不当に誘導して当該建物を購入させたというような特段の事由が存在する場合には不法行為が成立しうるというべきであるが、本件全証拠によっても、被告南口が他の被告と共謀してであっても、ことさらに原告を勧誘して本件売買契約締結させたというような特段の事由は認められない。したがって、被告南口が原告に対して不法行為責任を負う旨の原告の右主張は採用できない。

五  争点5(被告矢野の不法行為の成否)について

原告は、被告矢野が本件建物の建築につき、工事監理者となった又はその旨届け出たにもかかわらず、工事監理を怠った結果、本件瑕疵を発生させたなどと主張して、建築士法などを根拠に被告矢野が原告に対して不法行為責任を負う旨主張する。

しかし、被告矢野が、工事監理者となる契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないし、建築士法は行政法上の取締法規に過ぎない上、被告矢野が同被告を工事監理者として届け出ること即ち名義を貸すことに同意したことによって、直ちに建築確認申請の際の設計とは全く異なる建物が建築されることになるとは限らないと考えられるので、この場合ににわかに工事監理者となった場合と同等の不法行為法上の責任を負うことになるとする確たる根拠はないと考えられる。また、前項四判示のとおり、単に契約目的物に瑕疵・欠陥があるため目的物自体の価値が低いというのみでは、原則として不法行為は成立しないと解されるところ、本件全証拠によっても、被告矢野が本件売買契約締結の際、原告に対し、他の被告と共謀の上でことさらに本件不動産の購入を勧誘したというような特段の事由は認められないから、被告矢野は原告に対して不法行為責任を負わない。

したがって、原告の右主張は採用できない。

六  争点6(損害等(主位的請求))について

1  本件売買代金相当額 三一九三万五〇〇〇円

被告アイワエステムは、解除に基づく原状回復として、被告内本は、不法行為に基づく損害賠償として、それぞれ、本件売買代金相当額を原告に支払う義務を負う。なお、被告内本の関係では、右代金の出捐自体により原告に損害が発生しており、被告アイワエステムに対して右金員を請求しうることは、被告内本に対して損害賠償請求することの妨げにはならない。

2  諸費用        二九五万七六四九円

証拠(甲一九、二〇、四六ないし四九、六一ないし六五及び弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件不動産の登記等の印紙代及び手続代行報酬として司法書士羽渕庚馬に対し四六万九九五〇円を、火災保険料として日本火災海上保険株式会社に対し四五万三二四〇円を、住宅ローン保証金として近畿信用保証株式会社に対し六九万〇一五六円を、契約印紙代として株式会社泉州銀行に対し二万〇二〇〇円を、固定資産税として堺市に対し一六万七八二〇円を、住宅ローン金利として泉州銀行に対し一一五万六二八三円を、それぞれ支払ったと認められ、右金員はいずれも、原告が本件売買契約を締結していなければ支払う必要のなかったものであるから、被告アイワエステムの瑕疵担保責任(原告が瑕疵の存在を知らなかったことにより支出を要した費用)及び被告内本の不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。

3  建築士の調査鑑定費用  八四万九七五〇円

本件瑕疵の内容については、通常人が容易に認識しうるものではなく、専門家の調査によらなければその有無、程度を知ることはできなかったものと認められ、証拠(甲二二、二三、五九及び弁論の全趣旨)によれば、原告は、矢野建築士に本件鑑定調査の報酬として八四万九七五〇円を支払ったものと認められるから、右調査費用も、被告アイワエステムの瑕疵担保責任及び被告内本の不法行為と相当因果関係にある損害と認められる。

4  慰謝料             五〇万円

本件建物には、前記二に認定したとおりの、構造性能・外壁防火性能上の著しい欠陥があり、いつ何時原告とその妻及び幼い二人の子供ら家族の生命身体に重大な被害をもたらすかも知れないとの不安を抱きながら、原告は本件建物に右家族と共に居住を継続しているのであって、現に、原告は、本件建物入居後、台風の際などに本件建物の揺れを実感しており(甲五八、六九)、これらによって原告が被った精神的損害を慰謝するには、五〇万円をもって相当とすべきである。

5  弁護士費用          三五〇万円

本件訴訟の事案の難易、訴訟物の価額、認容額、その他諸般の事情を斟酌すると、被告アイワエステム及び被告内本に賠償を求め得る弁護士費用としては、三五〇万円をもって相当と判断する。

三 以上のとおり、原告の主位的請求は、被告アイワエステムに対し瑕疵担保責任に基づく解除による原状回復及び損害賠償として、被告内本に対し不法行為に基づく損害賠償として、連帯して金三九七四万二三九九円及びこれらに対する不法行為の時でありかつ被告アイワエステムの本件売買代金全部の受領の時である平成九年一〇月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で理由があり、被告アイワエステム及び被告内本に対するその余の主位的請求並びに被告南口及び被告矢野に対する主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 坂本倫城 裁判官 増森珠美 裁判官 加藤陽)

(別紙)

物件目録

一 所在 堺市神野町一丁

地番 八六九番壱参参

地目 宅地

地積 六二・四一平方メートル

二 所在 堺市神野町壱丁目八六九番地壱参参

家屋番号 八六九番壱参参の弐

種類 居宅

構造 木造スレート葺参階建

床面積 壱階 弐参・五八平方メートル

弐階 参壱・参九平方メートル

参階 壱八・弐五平方メートル

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